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東京高等裁判所 平成5年(ネ)2747号 判決

控訴人(被告・反訴原告) 西村紀子 外一名

被控訴人(原告・反訴被告) 株式会社日本建材情報センター

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴人らの当審における新請求に基づき、控訴人らがJAMICシステムのうちの、工事別分類項目表(文化庁の実名登録番号第一四二七六号の一)及びJAMICシステム工事分類項目別メーカーリスト(文化庁の実名登録番号第一四四三一号の一)について著作権を有することを確認する。

3  控訴費用は、当審における新請求について生じた分は被控訴人の負担とし、その余は控訴人らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人ら(第一審本訴被告ら、第一審反訴原告ら)

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  被控訴人は控訴人らに対し、それぞれ金五〇〇万円及びこれに対する平成五年一月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

4  被控訴人は、JAMICシステムの名称の使用、JAMICシステム・マスターカード、JAMICシステム五〇音分類別メーカーリスト及び工事分類項目別メーカーリストの各複製、販売、頒布をしてはならない。

5  被控訴人は控訴人らに対し、JAMICシステム・マスターカードを引き渡せ。

6  訴訟費用は第一、二審の本訴、反訴を通じ被控訴人の負担とする。

7  3、5項につき仮執行の宣言

二  控訴人ら(当審で追加された新請求)

主文2項同旨の判決

三  被控訴人(第一審本訴原告、第一審反訴被告)

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴人らの当審における新請求を棄却する。

3  控訴費用は控訴人らの負担とする。

第二当事者の主張

一  被控訴人(貸金等本訴請求の請求原因)

1(一)  被控訴人は控訴人ら各自に対し、昭和五九年七月三〇日四〇〇万円を弁済期の定めなく貸し付けた。

(二)  被控訴人は控訴人らに対し、昭和六〇年七月二五日までにその返済を催告した。

2(一)  被控訴人は控訴人西村に対し、昭和五九年一二月一四日二五〇万円を昭和六〇年一月二五日から毎月二五日限り五万円宛返済するとの約定で貸し付けた。

(二)  控訴人後藤は被控訴人に対し、前同日右(一)の債務を保証した。

3  被控訴人は控訴人ら各自に対し、昭和六〇年一月二三日二〇〇万円を同年二月二五日から毎月二五日限り五万円宛返済するとの約定で貸し付けた。

4  よって、被控訴人は控訴人らに対し、各自、消費貸借契約及び保証契約に基づき、貸金1の元本残金二四〇万円及びこれに対する弁済期後である平成元年二月三日から、貸金2の元本金二五〇万円及びこれに対する最終弁済期の翌日である平成元年二月二六日から、貸金3の元本金二〇〇万円及びこれに対する最終弁済期の翌日である昭和六三年五月二六日から、それぞれ支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  控訴人ら(右請求原因に対する認否)

請求原因1ないし3項の事実のうち、被控訴人の控訴人らに対する貸付額、貸付年月日を認めるが、その余は否認する。

三  控訴人ら(損害賠償等反訴請求の請求原因、貸金等本訴請求の抗弁)

1  控訴人らは、建築資材のカタログを分類して専用ボックスに収納するシステム(以下「JAMICシステム」という。)を開発した。

JAMICシステムは、工事別分類項目表を基礎とするメーカーリスト、ボックス、ラベル、メーカーの発行したカタログの利用方法等を総合したものであって財産的価値を有するとともに、創作者の人格が投影されたものとして人格権的な価値を有するものであるから、控訴人らは、JAMICシステム全体について、人格権を有するものであり、少なくとも不法行為法によって保護するに値する法的利益を有するものである。

また、このシステムの中心部分であるJAMICシステム工事別分類項目表(以下「工事別分類項目表」という。)は、建築資材の分類方法を定めた編集著作物(著作権法一二条一項)であり、また、これと一体をなしているJAMICシステム工事分類項目別メーカーリスト(以下「工事分類項目別メーカーリスト」という。)は、建築物全般にわたって使用するすべての資材を網羅した建築関連資材の現物カタログを使用した百科辞典ともいうべき編集著作物であって、控訴人らは、それぞれについて実名の登録を受けており(前者は文化庁の実名登録番号第一四二七六号の一、後者は同登録番号第一四四三一号の一)、著作権を有する。

2  控訴人らは被控訴人に対し、昭和五九年六月ころ、JAMICシステムの使用を許諾(以下「本件使用許諾契約」という。)した。

3  控訴人らの被控訴人に対する右使用の許諾は無償ではなかったのにかかわらず、被控訴人は使用料についての協議に応じず、現在に至るまでJAMICシステムを無償で使用、販売している。

4  控訴人らは被控訴人に対し、平成五年一月二二日付反訴状で被控訴人の背信行為を理由として本件使用許諾契約を解除する旨の意思表示をし、右書面は、同月二六日被控訴人に到達した。

5  昭和五九年一月一日から平成三年一二月三一日までのJAMICシステムの使用料相当額は五九九五万二八〇〇円である。

したがって、被控訴人は控訴人らに対し、不法行為に基づく損害賠償金あるいは不当利得に基づく返還金として右金員を支払うべき義務がある。

6  被控訴人は、控訴人らがJAMICシステムについて著作権を有することを争うので、控訴人らは、紛争の発生を防止するため、このうちの少なくとも工事別分類項目表及び工事分類項目別メーカーリストについて控訴人らが著作権を有することの確認を求める利益がある。(この項の主張は当審において追加されたもの)

7  よって、控訴人らは被控訴人に対し、(一)仮に被控訴人が前記一の債権を有するとしても、同債権と控訴人らの有する前記5の債権とを対当額をもって相殺し、(二)控訴人らそれぞれに、前記5の内金として、金五〇〇万円及びこれに対する反訴状送達の日の翌日である平成五年一月二七日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求め、JAMICシステムの名称の使用、JAMICシステム・マスターカード、JAMICシステム五〇音分類別メーカーリスト及び工事分類項目別メーカーリストの各複製、販売、頒布の差し止め、及び、JAMICシステム・マスターカードの引渡しを求め、かつ、工事別分類項目表及び工事分類項目別メーカーリストについて著作権の確認を求める。(著作権確認請求は当審において追加されたもの)

四  被控訴人(右請求原因、抗弁に対する認否)

1  請求原因1項の事実のうち、控訴人らがJAMICシステムを開発したことは認めるが、その余は否認する。JAMICシステムとは、建築資材メーカーの作成した建築資材のカタログを一定の分類項目に従って分類し、それぞれの専用ボックスに収納するというものであって、創作性がなく、著作権の保護の対象となるようなものではない。

控訴人らは、工事別分類項目表、工事分類項目別メーカーリストについて、編集著作権が成立する旨主張するが、編集著作権として保護されるためには、素材の選択又は素材を収集し、分類し、選別し、配列するという一連の行為に知的創作性が認められなければならない。

しかるに、工事別分類項目表は、建設省大臣官房の標準仕様による工事別分類を基礎とし、これに材料別、建物用途別を加えて分類したもので、既知の一般に行われている工事別あるいは建材・設備資材の材料別の分類により作成されたごくありふれたものである。

工事分類項目別メーカーリストは、一般に行われている通常の分類に従った工事別あるいは建材・設備資材の材料別の分類項目に、該当するメーカーの会社名を五〇音順に並べたもので、ごくありふれたものである。

これらのものは、知的活動を要せずして作成されたものであって、そこには素材の選択、分類、配列等に作成者の精神的労力が加わった独創的思索が存するとはいえず、創作性があるとはいえない。

2  同2項の事実は認める。

3  同3項の事実のうち、被控訴人がJAMICシステムを使用、販売していることは認めるが、その余は否認する。

4  同5項の事実は否認する。

5  同6項の事実のうち、控訴人らの著作権の主張を争っていることは認めるが、その余は否認する。

五  控訴人ら(三の請求原因2、3、4項についての予備的請求原因、予備的請求原因は当審において追加されたもの)

1  控訴人ら、ヱスビー食品株式会社、株式会社イチゼンは、昭和五九年六月ころ共同して新会社(被控訴人会社)を設立し、控訴人らは、被控訴人に対してJAMICシステムの使用を許諾し、営業の実務面を担当してそのノウハウを提供し、ヱスビー食品株式会社側は、事業資金を提供し、双方共同してJAMICシステム事業を展開するという内容の共同事業契約(以下「本件共同事業契約」という。)を締結した。

2  しかし、控訴人らは、会社における役員の就任を拒否され、会社の経営から排除され、被控訴人は、控訴人らの開発したJAMICシステムを無償で使用し、収益をあげている。

3  控訴人西村は、昭和六三年三月被控訴人会社を退職したが、この時点で控訴人らと被控訴人は、共同事業に関して何の関係もなくなったもので、本件共同事業契約は、黙示の合意により解除された。

六  被控訴人(右請求原因に対する認否)

1  請求原因1項の事実は否認する。

2  請求原因2項の事実のうち、控訴人らが役員に就任しなかったことは認めるが、その余は否認する。

3  請求原因3項の事実のうち、控訴人西村が主張の頃に退職したことは認めるが、その余は否認する。

第三証拠〈省略〉

理由

第一

一  貸金等本訴請求について

請求原因1ないし3項の事実のうち、被控訴人の控訴人らに対する貸付額、貸付年月日は当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第一号証及び弁論の全趣旨により、1項(一)、(二)のその余の事実が、成立に争いのない甲第二号証により、2項(一)、(二)のその余の事実が、成立に争いのない甲第三号証及び弁論の全趣旨により、3項のその余の事実が認められる。

二  そうすると、被控訴人は控訴人らに対し、各自、消費貸借契約及び保証契約に基づき、貸金1の元本残金二四〇万円及びこれに対する弁済期後である平成元年二月三日から、貸金2の元本金二五〇万円及びこれに対する最終弁済期の翌日である平成元年二月二六日から、貸金3の元本金二〇〇万円及びこれに対する最終弁済期の翌日である昭和六三年五月二六日から、それぞれ支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求めることができるというべきである。

第二

一  損害賠償等反訴請求、貸金等本訴請求の抗弁について

1  請求原因1項の事実のうち、控訴人らがJAMICシステムを開発したことは当事者間に争いがない。

そこで、JAMICシステムの具体的内容について検討するに、成立に争いのない乙第二ないし第五号証、第八号証の一、第一四号証、第二一号証(原本の存在も争いがない。)、第四一号証、原審における控訴人西村本人尋問の結果及び弁論の全趣旨により成立の認められる乙第一号証、第八号証の二、第一〇号証の一、二、第一一、第一二号証、第一三号証の一ないし二四、第一八号証及び右控訴人西村本人尋問の結果によれば、以下の事実を認めることができる。

(一) JAMICシステムとは、建築設計業務、施工業務の実施に必要な建材・設備資材のカタログ情報を整備して業者に提供することを目的とするシステムであって、建材・設備資材等のメーカーのカタログを収集し、別途に建築工事について分類項目表を作成し、他に五〇音別メーカーリスト、工事分類項目別メーカーリスト等を作成し、右カタログを右分類項目表に従って分類し、専用のボックスに整理保管し、随時資料の差替えを行っていくという建築資材専用のファイリングシステムである。

(二) このために、控訴人らは、建材・設備資材メーカーからカタログを収集するとともに、建材・設備資材メーカーについて、会社名、製品名、電話番号、担当部課名等を記入した、五〇音別と工事分類項目別の二種類のマスターカードを作成している。

(三) JAMICシステムの中核をなす工事別分類項目表の分類は、建設省大臣官房の標準仕様による工事別分類に材料別、建築用途別を加味したもので、いずれも通常建設工事で使用される用語を用いて、別紙(一)に示す如く、大項目に工事種別を配置し、中項目に大項目の工事種別をメーカーのカタログに即して細分化した項目を配置し、小項目に中項目の工事種別を材料、工法、部位等により更に詳細に細分化した項目を配置し、コンピューターデータベース化を容易にしたものである(実際のカタログは、中項目で分類してボックスに収納する)。

右分類項目表については、「JAMICシステム工事別分類項目表」として、平成四年一〇月二二日控訴人らを著作者とする実名登録(文化庁の実名登録番号第一四二七六号の一)を受けた。

(四) 工事分類項目別メーカーリストは、別紙(二)に示す如く、前記工事別分類項目表に従い、右工事分類の中項目別に五〇音順に企業名を分類し、会社名、電話番号、場合により担当部課名を記載したものである。

右工事分類項目別メーカーリストにいては、「JAMICシステム工事分類項目別メーカーリスト」として、平成六年七月一四日控訴人らを著作者とする実名登録(文化庁の実名登録番号第一四四三一号の一)を受けた。

(五) 五〇音分類別メーカーリストは、会社名を五〇音順に並べ、そのカタログが収納されているボックス番号、工事分類項目中の該当項目を記載したものである。

(六) カタログは、ダンボール様の紙で作られた専用のファイルボックスに、工事分類項目に沿った大項目、中項目に分けて収納され、このボックスには、大項目、中項目のシールと分類ナンバーシールが貼付される。カタログにも、分類ナンバーシールが貼付される。

(七) このシステムにより、膨大な量の建材・設備資材のカタログ等を分類し、整理保管し、検索することが容易になり、これを主に設計事務所、建設会社等を対象に販売し、ボックス及びカタログを設置し、随時差替えを行ってメンテナンスを図っていく。

右事実を総合すれば、控訴人らが開発したJAMICシステムは、膨大な建材・設備資材のカタログを分類し、整理保管するシステムであり、全体として一つの法的な権利を構成するとはいえないものの、財産的価値を有するものとして取引の対象となり得るものということができる。

そして、既存の素材であっても、一定の方針あるいは目的のもとに、これを分類、選択、配列する行為に創作性があれば、これを編集著作物として著作権の保護が与えられるところ、右JAMICシステムのうち、控訴人らが著作権を有すると主張する工事別分類項目表及び工事分類項目別メーカーリストは、いずれも建築・資材設備に関するカタログの分類、保管、検索を容易にするという目的のもとに作成されたものであり、工事別分類項目表においては、前記(三)認定のとおり、工事項目を通常の建築用語を用いて、大項目、中項目、小項目とカタログの分類、保管、検索が容易であるように順次分類配置したものであって、工事項目の分類、選択、配列に創意と工夫が存するものと認められ、また、工事分類項目別メーカーリストにおいて、工事別分類項目表に従い、これと関連付けてカタログの検索が容易であるようにメーカー名を分類、配置したものであって、その分類、選択、配列にも創意と工夫が存するものと認められるから、著作権法一二条に規定する編集著作物に当たるものである。

したがって、控訴人らは、工事別分類項目表及び工事分類項目別メーカーリストについて著作権を有するというべきである。

2  請求原因2項の事実は当事者間に争いがない。

3  請求原因3項の事実のうち、被控訴人がJAMICシステムを使用、販売していることは当事者間に争いがない。

そこで、本件使用許諾契約がなされた経緯について検討するに、前掲乙第一号証、第一三号証の一ないし二四、第一八号証(乙第一号証、第一八号証については、一部措信しない部分を除く。)、当審における証人小俣吉正の証言により成立の認められる甲第四、第五号証、成立に争いのない乙第一五号証、弁論の全趣旨により成立の認められる乙第一八号証、原本存在及び手書き部分を除くその余の部分の成立に争いない乙第二二号証、右証人小俣吉正の証言、原審における控訴人西村本人尋問の結果(一部措信しない部分を除く。)によれば、以下の事実を認めることができる。

(一) 控訴人らは、昭和五六年四月ころから建材・設備資材のカタログを収集し、工事別分類項目やメーカー名簿の作成等を開始し、昭和五七年二月ころ工事別分類項目表を完成した。

(二) 控訴人らは、同年一一月一七日株式会社日本情報センターを東京都千代田区に設立し(以下「旧会社」という。)、同社の事業としてJAMICシステムの販売について設計事務所等への営業活動を開始したが、当初から事業資金が不足していた。

(三) 控訴人らは、昭和五八年一二月ころ株式会社イチゼン(以下「イチゼン」という。)の代表者田中陽介を通じて株式会社ヱスビーエンタープライズ(以下「ヱスビー」という。)の代表者小俣吉正に対し、旧会社への資金援助等の強力を求めた。ヱスビーとの話合いでは、主に田中が控訴人らの代理人として交渉にあたった。

(四) 右交渉の結果、昭和五九年六月ころ控訴人ら、小俣吉正、田中陽介との間で、次の内容の合意が成立した。

(1)  建材のカタログや、資材、情報の販売を目的とする株式会社日本情報センターという旧会社と同一名称の会社(被控訴人会社)を東京都千代田区に設立し、代表取締役にはヱスビー社員だった大森正明が、取締役にはヱスビーの代表者だった小俣正一、イチゼン代表者田中陽介が就任し、控訴人西村は建材・設備カタログ資料館の館長に就任する。

(2)  右会社の資本額は一〇〇〇万円とし、ヱスビーとその関係者で五〇パーセント(ヱスビー三〇パーセント、小俣吉正一〇パーセント、大森正明一〇パーセント)、田中夫妻二〇パーセント、控訴人ら、関口和子で三〇パーセント(各一〇パーセント宛)の出資をする。

(3)  営業の実務は、控訴人らがこれまでの経験を生かし、同人らの有する知識、情報の一切を駆使して当たる。旧会社は、JAMICシステム・マスターカード、ボックス、シール等現場があるものは、これを新会社に提供する。

(4)  旧会社は、本店を保谷市に移転し、商号も変更する。

(五) 右合意においては、被控訴人が旧会社から事業を引き継いでJAMICシステムの販売活動を継続していくこととされ、被控訴人において無償でJAMICシステムを使用できることが当然の前提となっており、被控訴人が控訴人らに対して右システムの使用料を支払う旨の交渉がなされたり、支払いの合意がなされたことはなく、前記控訴人らを含めた関係者間では、会社の事業から上ってくる利益を株式持分割合に応じて分配することが予定されていた。ただし、ボックスについては、そのデザイン企画費を第三者に支払わなければならないので、被控訴人において当初これを負担した。

(六) 被控訴人は、昭和五九年六月設立され、その株主構成は、前記出資額に応じ、ヱスビーとその関係者が一〇〇株、田中夫妻が四〇株、控訴人ら、関口和子が六〇株とされた。

(七) 控訴人らは、マスターカード等を被控訴人の会社に持ち込み、被控訴人の事業としてJAMICシステムの販売活動をしていたが、営業実績が上がらず、設立当初から毎決算期とも経常損失が生じ、ヱスビーからの出向役員らとの経営方針の相違等もあって、控訴人後藤は昭和六〇年一〇月ころ、控訴人西村は昭和六三年三月ころ被控訴人会社を退社した。

以上の事実を総合すれば、被控訴人会社設立に際し、控訴人らを含む出資者間において、被控訴人が旧会社の事業を承継してJAMICシステムの販売活動を展開していくこと、そのために、被控訴人において旧会社が使用していたJAMICシステムを無償で使用することが前提とされており、すなわち、被控訴人がこれを無償で使用することが許諾されていたということができる。

右認定に反する乙第一号証、第一八号証、第四〇号証(いずれも控訴人らの陳述書)の記載、原審における控訴人西村本人尋問の結果の各一部は前掲各証拠に照らして措信できず、他に右認定を動かすに足りる証拠は存しない。

二  損害賠償等反訴請求の予備的請求原因について

1  請求原因1項につき判断するに、前項3の認定の事実からすると、被控訴人はJAMICシステムの販売の事業をすることを主たる目的として設立されたものであって、控訴人らにおいて被控訴人会社を退職したからといって、これによって直ちに会社の事業が終了するというような意味での共同事業契約がなされたと認めることはできない。

2  請求原因2項の事実のうち、控訴人らが役員に就任しなかったこと、同3項の事実のうち、控訴人西村が被控訴人会社を退職したことは当事者間に争いがないが、そうであるからといって、共同事業契約が解除されたものと認めることはできない。

三  そうすると、その余の点について判断するまでもなく、控訴人らの不法行為あるいは不当利得に基づく金員の請求、相殺の抗弁は認めることができず、また、被控訴人は控訴人らからJAMICシステムを使用することを許諾されているから、控訴人らのJAMICシステムの名称の使用、JAMICシステム・マスターカード、JAMICシステムに基づく五〇音分類別メーカーリスト及び工事分類項目別メーカーリストの各複製、販売、頒布の差し止め、及び、JAMICシステム・マスターカードの引渡しを求める請求も認めることができないが、JAMICシステムのうち工事別分類項目表及び工事分類項目別メーカーリストについては、控訴人らが著作権を有することに争いがあり、控訴人らが右著作物について著作権を有することの確認を求める部分は理由があるのでこれを認容すべきである。

第三よって、被控訴人の本訴請求を認容し、控訴人らの反訴請求を棄却した原判決は正当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、なお、控訴人らが当審において追加した著作権確認請求は理由があるのでこれを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法三八四条、九五条、八九条、九二条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 竹田稔 関野杜滋子 持本健司)

別紙(一)

大項目

中項目

小項目

1.仮設

1.仮設資材

1.囲障,ゲート

2.足場,桟橋

3.仮設道路

4.保安器材・安全装備

5.養生・清掃

6.その他

2.施工機材

(特定の工法に関連したものを除く)

1.測量・検査

2.運搬・揚重

3.掘削・廃土

4.振動・破砕

5.工具

6.その他

3.仮設用組立ハウス

1.現場ハウス

2.移動ボックス

3.簡易建築システム

4.その他

4.型枠

1.型枠パネル

2.化粧型枠

3.特殊型枠

4.捨型枠

5.型枠工法

6.その他

5.型枠関連部品

1.型枠支保工

2.締結金具

3.スペーサ類

4.面木・目地棒

5.その他

6.型枠剥離剤

1.型枠剥離剤

2.型枠用塗料

3.その他

別紙(二)「工事分類項目別メーカーリスト」〈省略〉

原審判決の主文、事実及び理由

主文

一 被告(反訴原告)らは、原告(反訴被告)に対し、各自金六九〇万円及び内金二〇〇万円に対する昭和六三年五月二六日から、内金二四〇万円に対する平成元年二月三日から、内金二五〇万円に対する平成元年二月二六日からそれぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二 被告(反訴原告)らの反訴請求をいずれも棄却する。

三 訴訟費用は本訴反訴を通じ被告(反訴原告)らの負担とする。

四 この判決は第一、三項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一 本訴

主文一項同旨

二 反訴

1 原告(反訴被告。以下「原告」という。)は、被告(反訴原告。以下「被告」という。)らに対し、それぞれ金五〇〇万円及びこれに対する平成五年一月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2 原告は、JAMICシステムの名称の使用、JAMICシステム・マスターカード、JAMICシステムに基づくあいうえお順及び製品別メーカーリストの各複製、販売、頒布をしてはならない。

3 原告は、被告らに対し、JAMICシステム・マスターカードに引き渡せ。

第二事案の概要

本件は、本訴で原告が被告らに対し、消費貸借契約及び保証契約に基づき、後記貸金(一)の元本残金二四〇万円及びこれに対する弁済期の後の日である平成元年二月三日から、後記貸金(二)の元本二五〇万円及びこれに対する最終弁済期の翌日である平成元年二月二六日から、後記貸金(三)の元本二〇〇万円及びこれに対する最終弁済期の翌日である昭和六三年五月二六日からそれぞれ支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求めたのに対し、反訴で被告らは、被告らは原告に対し被告らの考案した建築資材のカタログを分類して専用ボックスに収納するシステム(以下「JAMICシステム」という。)の使用を許諾したが、無償での使用を許諾したことはないにもかかわらず、原告は使用料についての協議に応じず現在に至るまで無償で右システムを使用販売しているので、被告らは右使用許諾契約を解除し、被告らのJAMICシステムについての人格権(右システムのうち一部については著作権)に基づき、JAMICシステムの使用販売を差し止め、不法行為に基づく損害賠償請求あるいは不当利得に基づく返還請求として昭和五九年から平成三年までの使用料相当額五九九五万二八〇〇円のうち一〇〇〇万円を反訴において請求し、また本訴請求に対して対当額で相殺した事案である。

一 争いのない事実など

1(貸金一)

(一) 原告は、昭和五九年七月三〇日、被告ら各自に対し、四〇〇万円を弁済期の定めなく貸し付けた。

(二) 原告は被告らに対し、昭和六〇年七月二五日までにはその返済を催告していた(被告西村本人)。

2(貸金二)

(一) 原告は、昭和五九年一二月一四日、被告西村に対し、二五〇万円を昭和六〇年一月二五日から毎月二五日限り五万円宛返済するとの約定で貸し付けた(甲二)。

(二) 被告後藤は、昭和五九年一二月一四日、原告に対し、右(一)の債務を保証した(甲二)。

3(貸金三)

原告は、昭和六〇年一月二三日被告ら各自に対し、二〇〇万円を同年二月二五日より毎月二五日限り五万円宛返済するとの約定で貸し付けた(甲三)。

二 争点

被告ら主張のJAMICシステムについて被告らに人格権(あるいは一部については著作権)が認められるか(争点1)、被告らが原告に対しJAMICシステムの無償での使用を許諾していたか(争点2)が争点である。

第三争点に対する判断

一 争点1について

1 証拠(乙一ないし五、一〇の1、2、一一ないし一四、一八、被告西村本人)によれば次の事実が認められる。

(一) JAMICシステムは、工事分類項目索引を基本として工事分類項目別・五〇音分類別メーカーリストと専用ボックス(分類項目シール、分類ナンバーシール)により建材・設備資材カタログを分類整理するシステムである。

(二) 右システムの中核をなす工事分類項目索引の分類項目は、建設大臣官房の標準仕様による工事別分類に材料別、建物用途別を加味した分類項目に従って分類したものである(乙三)。

(三) 右分類項目索引については「JAMICシステム分類項目表」として被告らのために著作者の実名登録がなされている(乙一四)。

(四) 右工事分類項目別メーカーリスト(乙一二)は、右分類項目に各企業名を分類し、その電話番号を記載したものであり、五〇音分類別メーカーリスト(乙一一)は、各企業名を五〇音順に並べ、後記のボックス・ナンバーと右分類項目の該当項目を列記したものである。

(五) 右工事分類項目別・五〇音分類別メーカーリストを作成するために、工事分類項目別・五〇音分類別のマスターカードを作成している。

(六) カタログの整理保管のためにはファイルボックス様の専用ボックスを用い、これに右分類項目に沿った大項目、中項目のシールと分類ナンバー・シールを貼付している。

(七) 右システムにより、専門家でなくても膨大な量の建材・設備資材のカタログ等を整理保管することができ、また必要なカタログを容易に探すことができる。

2 右事実を総合すれば、右システムは全体として工夫されたものであり、商業的価値も存在するものと推認されるが、右システムの中核をなす分類項目自体は、前記のとおり、建設大臣官房の標準仕様による工事別分類を基礎としたものにすぎず創作性に乏しく、右分類項目に既存のファイルボックス等を組み合わせ機械的な労力さえ投入すれば、同様のシステムを完成することは容易であることからすると、JAMICシステム全体について人格権(マスターカードや会社別、製品別メーカーリストについては著作権)が成立しているかは必ずしも明らかではない。

二 争点2について

1 右システムについて被告らに人格権あるいは著作権が成立しているとしても、次のとおり、原告は被告らの右権利を侵害しているものとはいえない。

2 すなわち、証拠(甲四、五、乙一、一三、一五、一六、一八、被告西村本人)によると次の事実が認められる。

(一) 被告らは、昭和五六年四月ころから建材設備資材のカタログを収集し、分類項目やメーカー名簿の作成等の開始し、昭和五七年二月ころ、分類項目表を完成した。

(二) 被告らは、同年一一月一七日、株式会社日本情報センターを設立し(以下「旧会社」という。)、同社の事業としてJAMICシステムの販売について設計事務所等への営業活動を開始したが、当初から事業資金が不足していた。

(三) 被告らは、昭和五八年一二月ころ、株式会社イチゼンの代表者田中陽介を通じて株式会社ヱスビーエンタープライズ(以下「ヱスビー」という。)に対し、旧会社への資金援助などの協力を求めた。ヱスビーとの話し合いでは、主に田中が被告らの代理人として交渉していた。

(四) 昭和五九年六月ころ、右交渉の結果、ヱスビー、田中、被告らとの間で、次の内容の合意が成立した。

(1)  東京都千代田区に建材のカタログや資材、情報の販売を目的とする株式会社日本情報センターという旧会社と同一名称の会社(原告)を設立する。

(2)  右会社の資本額は一〇〇〇万円とし、ヱスビーとのその関係者で五〇パーセント、田中夫妻、被告ら、関口で五〇パーセントの出資をする。

(3)  営業の実務は、被告らがこれまでの経験を生かし同人らの有する知識、情報の一切を駆使して当たる。

(4)  旧会社は本店を保谷市に移転し、商号も変更する。

(五) 右合意においては原告が旧会社の事業を引き継いでJAMICシステムの販売活動を続け、被告らは原告の株主となることが当然の前提となっており、被告らに対して原告が右システムの使用料を支払う旨の合意がなされたり、右システムの使用料の支払についての交渉がなされたりしたことはなかった。

(六) 原告は昭和五九年六月設立されたが、その株主構成は、前記出資額に応じヱスビーとのその関係者で一〇〇株、田中夫妻が四〇株、被告ら、関口で六〇株とされていた。被告らは田中に交渉を一任していたところ、田中が被告らの株券を所持していたが、結局、平成元年に田中が破産した際に右株券も失われ、被告らは原告の株主たる地位を主張できなくなった。

(七) 被告らはマスターカードなどを原告に持ち込み、原告の事業としてJAMICシステムの販売活動をしていたが、営業実績が上がらず原告は赤字であり、ヱスビーからの出向役員らとの経営方針の違いなどから、被告後藤は昭和六〇年一〇月ころ原告を退社し、被告西村も昭和六三年三月退社した。

3 以上の事実を総合すれば、原告は旧会社の事業を承継してJAMICシステムの販売活動を展開していくことが原告設立についての出資者間の当然の前提となっていたものであり、被告らが原告の株主であるかぎりは被告らは原告から株式配当の形で右システムの販売による利益の分配を受けることができたものが、被告らは田中に交渉を一任していたために株券の引渡しを受けることができず、株主たる地位を失ってしまったために、被告らの当初の見込みとは異なる結果に至ったにすぎないものと認められるから、原告は設立当初から無償でJAMICシステムを使用することを許諾されていたものであって、被告らは右使用について使用料の支払や使用の差止めを請求しうる立場にはないものと認められる。

第四結論

よって、その余について判断するまでもなく、原告の本訴請求は理由があり、被告らの反訴請求は理由がない。

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